街に出れば、カフェでもコンビニでもショッピングモールでも、どんな店に入っても、必ずと言って良いほど音楽がかかっている。
テレビをつければ、ドラマでもバラエティ番組でも、無数の音楽が使われている。
YouTubeでも、世界中で音楽は、膨大な回数が再生されている。
僕らは通学や通勤の途中にも、イヤホンで音楽を流す。
このように現代の世界では、音楽の存在しない場所は、ほとんど存在しない。
月額課金制のサービスやアプリやYouTubeで、ほとんどお金をかけず、無限の音楽を聞くことが出来る。
音楽はあまりにも気軽で、ありふれすぎていて、どんどんその重要さは低下している。
だけど僕らは、こんなに世界に溢れかえっている音楽を、本当に経験していると言えるだろうか?
「音楽を味わう」という経験を、一体どれぐらいしているだろうか?
最後に耳を傾けて音楽を味わったのは、いつのことだろうか?
音楽が「素晴らしい気持ち」をもたらしてくれたのは、いつのことだろうか?
僕は今日、人生で久しぶりに、音楽を聴いた。
音楽を聴くという体験を味わった。
そして今まで僕がいかに、音楽聴いていなかったかということが証明された。
人生でも本当に長い間、音楽を「ただ耳に当てていた」ように思う。
だが「音楽を聴く」という行為は「音が耳に触れている」という現象とは、まったく違うものだと気付かされた。
具体的な方法は、次の通りシンプルなものだ。
- 座る(だけど、姿勢はなんでも良い)
- 音楽を流して集中する(イヤホンをつけても、スピーカーを使っても、なんでも良い)
だけど音楽を聴いている間は、この体験に集中する。他のことはしない。
僕のスピーカーの前に座って、他の瞑想をする時と同じようにあぐらを組んだ。
曲は自分の好きなもの、特に穏やかで平和なものを選んだ。
エルヴィス・プレスリーのゴスペルだ。(Elvis Presley - Ultimate Gospel)
そして30分間のタイマーをかけた。
このたった30分間が、本当に素晴らしい経験になった。
(別に必ずこの時間じゃなくても良い、たった5分間だけでも、同じ経験することは出来る)
まるで1日中、果てしなく音楽を聴いていられそうになった。
今もこの記事を書きながら、同じ音楽を流し続けているが、その時の感動は失われ、まったく違った経験だと感じられる。
ついさっきまで「耳を傾けて音楽を聴いていた瞬間」が懐かしい。
このように音楽は「聴き方」によって、まったく別の経験を僕らにもたらしてくれるのだ。
音楽の聴き方は、人様々だ。
アーティストの熱烈なファンであれば、その人の顔が思い浮かぶかもしれない。
音響機材に詳しい人であれば、音質のことが気になるかもしれない。
だが僕の場合は、次のポイントに注意した。
- 音楽が自分に与えてくれる経験、エモーションに注意する
- 音楽によって今の瞬間を味わい、人生の経験のひとつにする
- 音楽にひたる、音と一体化する
- たとえば映画のシーンに使われている音楽のように、音楽が表現している情景を思い浮かべる
- 心地良い音があれば、それを楽しむ
こういった能動的な聴き方をすると、音楽は「単なる音の塊」ではなくなる。
音楽を聴くことが、量的ではなくて、質的な経験をもたらしてくれる。
音楽は、絵画と同じで、言葉だけでは決して表現できない、抽象度の高い世界を僕らに見せてくれる。(君はクオリアを信じるか?)音楽を聴くということは、日常の世界を抜け出して、より深遠な世界にタッチする行為だ。
この「能動的な聴き方」をしてみて、音楽を聴くということは、人生の経験の質をグンと上げてくれるだろうと感じた。
僕らは時に音楽によって、偶然素晴らしい気持ちになることがある。
たとえば学校の卒業式で音楽が流れたり、たとえば、クリスマスにユニバーサル・スタジオ・ジャパンでツリーを見ながら音楽を聴いた時などだ。
だけどまったく同じ音楽を聴いても、いつでも同じ気持ちになれるとは限らない。
むしろ聞けば聞くほど、感動が薄れて、無味乾燥なものになっていってしまわないだろうか。
だが「素晴らしい気持ち」になるためには、必ずしも特別なシチュエーションは必要ない。
ただ「音楽をちゃんと聴く」だけでも良いのだ。
音楽で「素晴らしい気持ち」になるのは、自分自身が「この体験を味わおう」というオープンな気持ちになっている時だ。
たとえ素晴らしい音楽が流れていても、その体験を味わう気持ちがなければ、経験は退屈なものになる。
(昔、学校の授業でクラシックを聞いて、退屈したことがあっただろう)
つまり逆に考えると「積極的に体験をする気持ち」さえあれば、はるかに多くのものが「素晴らしい体験」の対象となるのだ。
(こう考えると、リーズナブルに多くの音楽が聴ける現代の環境は、本当に素晴らしいものだ。材料はたくさんある!)
「集中して音楽を聴く」という習慣を、ぜひオススメする。
音楽が好きな人ならば特に、これは素晴らしい経験になるはずだ。
ところでこの「体験的な聴き方」の真逆に位置するのは「音楽なんて結局、音の集合にすぎない」という「非体験的な聴き方」だ。
僕も30分の間に、何度か、この感覚に陥りそうになった。
今さっきまで感じていた「意味」が急に失われて、音楽がまったく無意味なものに感じられてきてしまう。
だけど決してこれは、音楽自体から魔法が失われたわけじゃない。
自分自身の注意が逸れて、心の状態が変わったというだけの話だ。
だから僕らは「聴き方」も工夫する必要がある。
工夫すればするほど「聴き方」がうまくなって、音楽でより良い経験を手に入れることが出来ることだろう。
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